2024/10/20 21:18

緒真坂「ストーカーレポート」第1話「美しきストーカーの悲劇」の書き出しです。

 私はいま、ナツメグのストーカーをしている。彼女はボブヘアにして、端正な顔だちをしている。すらりとして、巨乳だが、セクシーではない。巨乳だからといって、セクシーとは限らない。セクシーではない巨乳だっているのだ。
 私はストーカーだが、キスして抱きしめたいとかセックスしたいとか、そういう欲求はないのだ。
 ナツメグは都内の小さな建築会社のOLで、アパートで、妹と暮らしている。妹は売れないミュージシャンで、バンドを組んでライブハウスで演奏をしているようだ。ギターを弾いている。

 ストーカーして三か月がたった頃、ナツメグにつきあっている男はいない、と私は判断した。それくらいストーカーしていればわかる。
 ナツメグをストーカーしていて、気がついたことがある。私のほかに、ナツメグのストーカーがいたのだ。ナツメグが外出すると、凧のようにするするとあとをつけていく男がいる。ナツメグが視線を感じて後ろをさっと振り返ると、男はぜったいに視界に入らないところにいる。こいつもプロだ。
 私はその男の顔を見たことはない。すれ違う瞬間もある。見ようと思えば見ることができるのだが、自然と視線を伏せてしまう。自分に似ていたら、いやだなと直感的に思うからだ。
 同じ女を好きになる人間は、同じ顔をしているのではないか、と私は怖れるのだ。だが、やがてむしろ興味がわいて、たまらなく見てみたい気もしてきた。
 ナツメグにはつきあっている男はいない、と私は書いた。だが、売春をしていた。
 ある日、ナツメグはゴリラのような巨体の筋肉質の男とラブホテルに入っていった。その男は私が初めて見る客だった。
 数時間後、ナツメグは顔と胸をメッタ刺しにされて殺された。